
【映画レビュー】『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』—恐怖の物理感と、消せない記憶
作品概要
『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』は、第2回日本ホラー映画大賞の大賞短編を監督自ら長編化した作品。
監督は近藤亮太、総合プロデューサーに清水崇。アナログ媒体“VHSテープ”をめぐる調査が、登場人物の過去と現在を軋ませながら、
観客の想像力を直接えぐるタイプの恐怖へと導いていく。
あらすじ(ネタバレなし)
敬太は幼少期に弟・日向を山中で失った過去を抱え、今も行方不明者支援のボランティアを続けている。
ある日、母から届いた一本のVHSテープを再生すると、そこには“失われた瞬間”に触れるような断片映像が記録されていた。
霊感のある同居人・司は深入りを戒めるが、敬太は記者・美琴とともにテープの出所と山の真相へ踏み込んでいく。
恐怖の要因:アナログの質感 × 曖昧さ
粗い画質、色ズレ、追従しない音声──VHS特有のノイズは、映っているはずの“何か”を判別不能にし、
観客の脳内補完を暴走させる。派手なジャンプスケアに頼らず、“見えない/分からない”こと自体を刃に変える。
演出と構造:沈黙と「間(ま)」の支配
何も起きないカットを長めに保ち、音の“抜け”を意図的に作ることで、観客の聴覚は微かな環境音へ過敏になる。
そして、わずかな違和感(風の抜け方、足音の反射、家電の作動音の遅延)が、次の瞬間の恐怖を予告する。
本作の恐怖は“待つ”ことによって育つタイプだ。
テーマ:記録と記憶のズレ
記録は客観、記憶は主観──そう思いがちだが、VHSはその境界を曖昧にする。
劣化しゆくテープは事実を保存するはずが、欠落や歪みを抱えた“もう一つの語り部”になる。
失われた過去を取り戻そうと再生ボタンを押す行為自体が、恐怖の儀式なのだ。
見どころ(ネタバレなし)
- 林道の静止画に近いロングショット――風の流れだけが時間の経過を示し、視界の端にかすかな“ズレ”が生じる。
- 再生・巻き戻し・一時停止の“機械音”が、場面転換の合図ではなく不穏の鼓動として機能。
- 室内の蛍光灯が発する低周波のうなりが、登場人物の呼吸とズレて不安感を増幅。
鑑賞ガイド
- 暗所・イヤホン視聴推奨:微細な環境音が鍵。
- ショッキングな直接描写は控えめだが、心理的不安を持続させるタイプの恐怖が中心。

「“分からないまま再生し続ける”って、一番危ない儀式だよね。だって、こっちの記憶まで書き換わるんだもん」
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「VHSのノイズって、“何も映ってない”のにいちばん怖いよ…脳が勝手に埋めちゃうから…」