【書籍レビュー】『文庫版 近畿地方のある場所について』――地図にない土地が、中身よりも恐怖になる

【書籍レビュー】『文庫版 近畿地方のある場所について』――地図にない土地が、中身よりも恐怖になる

カテゴリ: ホラー小説/出版: 2025年 夏(角川文庫)

作品概要

『近畿地方のある場所について』は、もともとWEBオカルト小説として注目された作品を、角川文庫が2025年夏に改めて文庫化した一冊です。
モキュメンタリー風の語り口によって、「存在しない土地」が現実に侵食する恐怖を描くスタイルがSNS上で大きな話題を呼び、ついに書籍化されました。
文庫化にあたって監修された追加書き下ろしパートもあり、原作ファンと新規読者の両方に配慮した構成になっています。

あらすじ(ネタバレなし)

主人公は、行方不明になった編集長を探す雑誌記者。捜索の過程で、「近畿地方のある場所」が手掛かりとして浮上します。しかし、その場所は正式な地図にも存在せず、名前も曖昧。
その噂を追ううちに、関西の郊外に点在する廃墟や神社、廃村などがリンクされ、報道用の調査映像や目撃談が積み重なる構造になります。
読者はいつの間にか、“地図にない土地”こそが最もリアルで恐ろしい存在なのでは、と感じ始めます。

恐怖の仕掛け

本作が強烈な印象を与えるのは、読者の想像力を“地図の空白”という形式で刺激する点にあります。

  • 地理の曖昧さ:実在するような地名と、曖昧な概要が混ざり、「もしかして本当にあるかも」と思わせるリアルさを演出。
  • 文章のドキュメンタリー性:雑誌記事、目撃インタビュー、動画書き起こしなどの形式を交錯させ、複数視点で信憑性を構築。
  • 観察の恐怖:映像や証言の間に漂う違和感や、“そこに何かある”かのような陰影が読者をじわじわ追い詰める。

“実在しない場所”が恐怖の対象になるというパラドックスが、本作の最大の魅力であり、最も刺さる構造です。

文庫化による新要素

今回の文庫版には新たな書き下ろし短編が収録されています。その内容は、本編後の“残された余韻”にフォーカスしたエピソードであり、読者の心理をさらに侵食するよう計算された構成です。
また、著者の作品解説や創作意図についての短文も加えられており、この物語が生まれた背景に触れられる点も価値があります。

読後感と意義

『文庫版 近畿地方のある場所について』を読み終えた後、読者は自分の周囲の地図を、あらためて確認したくなる衝動に駆られます。
目に見えるものがすべてではないという気づきを与えるこの作品は、単なるホラー小説を超え、読む者の世界観すら揺らせる力を持っています。
また、“怪談”と“リアリティの曖昧さ”を融合させた構造は、現代ホラーの新たな可能性を示す一冊でもあります。

蒼井カナタのアイコン
🌙 蒼井カナタ

「地図に載ってない場所が一番怖いって…そう感じるの、この本だけだったかも。誰かが“ある”って言い始めたら、鳥肌立つね…」

黒咲ミユのアイコン
🦇 黒咲ミユ

「“存在しない場所の恐怖”…存在そのものが恐怖のテーマになるの、すごく背筋が凍るわ。地図を見つめてしまう…」

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