
【書籍レビュー】『右園死児報告』『斬首の森』――現代ホラー文学の異なる恐怖の形を示す二冊
作品概要
「このホラーがすごい!2025年版」で国内編第6位に同率で選ばれたのが、真島文吉『右園死児報告』と澤村伊智『斬首の森』です。
いずれも方向性は異なりつつも、読者に強烈な恐怖体験を残すという点で共通しています。
真島文吉は新人ながら緻密な構成と猟奇的な描写で注目を集め、一方の澤村伊智は『ぼぎわんが、来る』『予言の島』などで知られる実力派作家。
この2冊が並んでランクインしたことは、日本ホラー文学の多様性を示す出来事といえるでしょう。
『右園死児報告』のあらすじ(ネタバレなし)
ある都市部で起きた猟奇的な児童失踪事件を調査した報告書、という形式で物語は進行します。
警察資料、新聞記事、関係者インタビューなどを織り交ぜたモキュメンタリー調の構成が特徴で、読者はまるで実際の事件記録を読んでいるような錯覚に陥ります。
やがて「右園」と呼ばれる謎の人物が事件の背後に浮かび上がり、失踪事件の真相は都市の闇と怪異の交錯する場所へとたどり着きます。
『斬首の森』のあらすじ(ネタバレなし)
舞台は人里離れた山間の森。そこには古くから「首を落とされた者の霊が徘徊する」という伝承がありました。
調査に入った民俗学者と学生たちは、やがて森に潜むおぞましい存在に直面します。
澤村伊智らしい、民俗ホラーと心理サスペンスの融合が際立つ物語です。
恐怖の仕掛け
両作に共通するのは「記録」と「伝承」が恐怖の起点になっている点です。
『右園死児報告』は現代的な報告書スタイルを通じて、“事実らしさ”が恐怖を増幅。
一方『斬首の森』は古来の伝承を利用し、読者の潜在的な恐怖心を揺さぶります。
- 『右園死児報告』:事件資料の断片を積み重ねることで、空白部分に想像を膨らませる恐怖。
- 『斬首の森』:首を失った霊という象徴的な怪異が、民俗的恐怖と直結する。
- 共通点:どちらも「人間の記録や語り」が恐怖を呼び覚ます構造を持つ。
読後感と意義
2冊を通して感じられるのは、「恐怖の多様性」です。
『右園死児報告』は現実の事件と地続きの恐怖を提示し、社会的ホラーの側面が強い。
一方で『斬首の森』は伝承に根ざした民俗ホラーであり、日本人の心に古くから根付く恐怖を再現しています。
いずれも「語る」「記録する」ことが恐怖の再生産に繋がるという共通テーマを持ち、現代ホラーの奥深さを示しています。
これらの作品が同率で6位に選ばれたのは偶然ではなく、ホラー文学が一つの方向に収束するのではなく、むしろ複数の表現手法で拡張していることの証といえるでしょう。

「『右園死児報告』はリアルすぎて夢に出そうだった…。『斬首の森』は逆に原始的な恐怖で心臓が冷えたよ」

「どっちの恐怖も違う味わいがあるのよね。現実の闇と伝承の闇、二重に突きつけられると逃げ場がない…」
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